尚冨の立川三昧

第3回 豊川稲荷 − その1

 今回は、豊川稲荷の本殿の鳳凰の話をしたいと思います。
 わたしが豊川稲荷を本格的に調査研究させていただいたのは、平成6年頃だったと思います。その頃、ちょうど高山の彫刻家や屋台保存会の方と親しくなり、いっしょに見学会をしましょうということになりました。また諏訪の方からも、立川常蔵さんの末裔の方も一緒に見たいということで参加をされました。
 豊川稲荷の鈴木賢毅さんという方にご案内をしていただき、くまなく勉強させていただきました。もちろん、豊川稲荷は立川流の彫刻で非常に有名なところですので、たびたび外から眺めさせていただくことはありましたが、内のすみずみまで本格的に見せていただくのは始めてのことでした。相変わらず、すばらしい彫刻だなと思いながら、見ておりました。その中で、二つの大きな発見がありました。

 ひとつは法堂(はっとう)という本堂にあたる所で、欄間にすばらしい立川流の彫刻を発見することができました。今まで、この欄間が立川流の彫刻だったという事は誰も知りませんでした。この法堂の欄間には水引幕がかけられ、ほとんど姿がみえない状態でした。その水引幕の下の方から獅子の足が少し出ていました。それが、目にとまりまして、「おやっ!」と思いました。
 「これは、立川の彫刻だな!」
 と一瞬感じましたので、鈴木賢毅さんにお願いしまして、この水引幕をたくし上げていただきました。
 するとすばらしい彫刻が現れました。正面は、まさしく立川流の子持ち龍の形態で、それが宝珠の玉を持っているというめずらしいものです。これは、豊川稲荷だけにある物だと思います。それから獅子は、立川流でおなじみの獅子形態図が、彫ってありました。豊川さんの方も始めて知ったという事で、大きな発見でした。
 
 もう一つは、本殿の厨子なのですが、通常、本殿の厨子は一般的にお参りをしますと、正面に鎮座しています。薄暗い中で、しかも距離がありますので、ほとんどその内容は見ることができません。今回は近くでじっくり見せていただいて、非常に驚きました。一見して、立川流彫刻でずっと覆われてりっぱな厨子だな、というだけで通りすぎてしまうわけですが、じっと見ますと、どうも色が付けてあったように見えました。全体が真っ黒な感じなのですが、これは長い間のろうそくや、お香のすすが付着して、黒くなったものです。最初は素木の彫刻にすすがついて真っ黒になったと思っていたのですが、よく見るとほのかに色を感じました。
 「ひょっとしたら彩色の彫刻ではなかっただろうか?」と思いました。よーく眺めてみますと、どうもそのような感じがするわけなのです。彩色彫刻と言いますと、立川流はあまり多くはないですね。彩色彫刻で立川流の代表的なものは、静岡の浅間神社で、東海の日光といわれるくらいすごい建造物が極彩色の彫刻で覆われています。この豊川稲荷の本殿の厨子も彩色であったのか、とあらためて驚きました。
上から 豊川稲荷 本殿、豊川稲荷 法堂(はっとう)、本殿厨子彫刻「鳳凰」
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