尚冨の立川三昧

第17回 立川流の秘密3−力神(その1)

 立川流彫刻の人気の題材に「力神」があります。力の神と書きますので、当然力強い姿、形相をして、いわゆる金剛力士像をアレンジしたような形になっています。
 以前、下絵の元絵ということで、葛飾北斎などが彫刻用の下絵の元になる教科書を描いていたということをお話ししたことがありますが、実はこの力神も北斎によって描かれています。力士という形で、力強い男性像で物を持ち上げているといった姿が描かれているわけですが、立川流の力神もそこから当然題材をとった物と思われます。
 
立川流彫刻の中には、秋葉神社・静岡浅間神社・豊川稲荷・武水別神社など、様々な所に力神が彫刻されていますが、およそ共通したところは、山門では、虹梁や梁を下から持ち上げたり手で支えたりという形になっています。また、本殿などの建造物の中にある力神は中央の太平束に当たる部分で一体が屋根を支えるような形で彫刻がなされています。
 つまり「建造物を力の神がしっかり支える」という意味合いでの彫刻配置が一般的なわけです。

 そんな中、立川流の力神の中でも最高傑作と言われるのが亀崎の力神車の「壇箱」といわれる部分に付けられている力神です。形相も筋肉の付き方も非常にすばらしいものです。ただ、この力神、先ほど述べた他の地区の山門等の力神と比べますと少し形態が違っています。下から持ち上げるという「持送り」という部分に付ける力神ではなくて、正面のさほど力を必要としない部分に一対付けられているのです。これは他の山門等ではみられない事です。正面の中心になる人の目に付くところに、人気のある作品を制作したと言ってしまえばそれまでなのですが、役割が少し違うのではないかなと思います。
写真  右上:「力士」 葛飾北斎  中左:秋葉神社神門の力神
下左:亀崎中切組力神車 壇箱彫刻  下右:【参考】持送りの力神(初代彫常)乙川浅井山
【 戻る 】 【 次へ 】